全脳組織開発帳

企業で人と組織の力を引き出す仕事をする中で学んだこと、感じたこと

対話のススメ

※社内メールマガジンに書いた文章を修正したものです

普段の会議で、こんなことはありませんか?

  • 当たり障りのない話に終始してしまい、思っていることを出したという実感がない
  • うわべの議論や「べき論」の繰り返しで、話が深まらない
  • 結論を急ぐあまり、ちゃんとした話し合いができていないと感じる
  • 他の人の発言に対し、深く考えずにすぐ反応してしまう
  • 他の人の発言に「なるほど」と思ったが、シャクなので賛成しなかった
  • 反論されると「責められた」「負けてはいけない」と考えてしまう
  • 言う前に他の人の反応を予想して、先回りした発言をしている自分がいる
  • 個々人の話の前提や背景がどうも合っていない気がしたまま議論が進んでいる
  • 「どうせ言っても否定されるだけ」と思うので言うのをやめてしまう
  • 空気を読んでしまい、言いたいことを言えない
  • 沈黙をおそれ、よく考えずに何かしゃべろうとしてしまう

このようなことが起こるのは、実はごく自然なことです。私たちは誰もが「自分を守りたい、否定されたくない」という気持ちを持っています。また、その場の雰囲気を保つことや、言われたことをできるだけ速く判断して対応することは、業務を円滑に進めるために大切なことです。

ただ、みんなで衆知を集めて物事を追求し、理解を深め、納得のいく結論を得るためには、これらのことは障害になりやすいのです。具体的には、以下の3つが対話を妨げる大きな要因となります。

  • 自己防衛: 自分を守ろうとすること、責められないようにすること
  • 条件反射: 他の人の発言に対して深く考えずにすぐに反応すること
  • 思い込み: 個々人の発言の背後にあるが共有できていない、暗黙の前提

これらを排して深い対話を行うのは、簡単なことではありません。でも、上記のような要因に対して全員が意識的になり、協力して課題を深く探求しようとする場を作ることができれば、個人としてもチームとしても対話のスキルが向上していきます。

まずはチームで対話の「練習」をしてみませんか? ファシリテーターを決めて、その人が場づくりに専念するのもいいと思います。 特別なイベントとして行う必要はありません。普段の検討会や連絡会の中で、実際に業務で直面している課題について、上記3つを少しずつ手放すことを意識しながらじっくり対話してみましょう。

コーチングのススメ

※社内メールマガジンに書いた文章を修正したものです

私が組織開発の活動を始めることになったきっかけはコーチングでした。ふとしたことからコーチングの講座に通い始め、すっかりはまってしまって、結局コーチの認定資格(米国CTI認定コーアクティブ・コーチ[CPCC])を取りました。

仕事の中でのコーチングは「上司が部下に接する時のコミュニケーションのしかた」という文脈で語られることが多いと思います。それも非常に大切な側面なのですが、それだけではありません。自分の状況を自ら改善したい人、成長したい人が、普段の仕事とは別に時間を設けてコーチと1対1で対話する「コーチングセッション」というやり方があります。

コーチというと、スポーツのコーチなどから「指導する人」のイメージを持たれる方が多いと思いますが、コーチングでは「指導」も「議論」も基本的に行いません。主にコーチから様々な質問(問い)を投げかけていくことにより、その人が本当はどうしたいのか、どうありたいのかということを引き出していき、目標達成や成長を支援します。根底には「その人が必要とする答は、全てその人の中にある」という考え方があります。

人は、自分が本当はどうしたいのかということはなかなかわからないものです。わかったとしても様々なしがらみ、思い込み、おそれなどからそちらへ踏み出せないということも多いでしょう。自分の内側をまっすぐに見つめ、それに従った次の一歩を踏み出すには、他者の助けが必要です。コーチングはそこに関わっていくものだと言えます。

典型的なやり方としては、月に2〜3回程度のセッション(1回1時間前後)を行い、そこで出てきたことから「やってみたいこと」を実生活で試してみて、それを次回のセッションでふりかえるというサイクルをまわします。

コーチングを活用する場面や、互いの中にある「答」を引き出し合う関わり方が増えていくことを願ってこの活動を行っています。

空気を読んで、空気に働きかけよう

※社内メールマガジンに書いた文章を修正したものです

「空気を読む」という言葉が急にクローズアップされてから何年か経ちました。「KY」という言葉もそろそろ死語でしょうか。調べてみると、「KY」が流行語大賞の候補になったのは2007年でした。

今でも「空気を読め」「いや空気を読んでいてはいけない」と、いろんなことが言われますが、私はこれらはいつも部分的にしか当たっていないと思っています。

そもそも日本語の「空気を読む」という言葉は、以下の2つの意味を含んでしまっているのです。

  1. その場の雰囲気を感じ取り、今どういう方向に流れていこうとしているのかを知る

  2. そして、流れに従った、流れを変えない行動をとる(あるいは何もしない)

「空気を読む」のもともとの意味は1.だけだったはずで、実はこれはとても大事なことです。会議でも普段の会話でも、あるいはチームや組織を日々運営していく上でも、今そこにどんな雰囲気が漂っているか、どっちへ流れていこうとしているかを察知することが、全体をよりよい方向に進めるための第一歩になります。

海外の人たちに混じってコーチングを学んでいる友人に聞いたことなのですが、日本人はこの「その場の雰囲気を感じ取る」力が高いそうです。グループで話していて「今、ちょっと冷めた雰囲気になったね」とか言うと「え? なんでわかるの?」と言われることが多いとか。

問題は2.です。雰囲気や流れを察知しても、ただただそれを変えないように(あるいは増長するように)していては、よりよい方向へ進めることはできません。ところが今の「空気を読む」という言葉は、1.と2.の両方を行うことを指すようになってしまいました。そして2.をやらない人、流れに従わない人が「空気を読めない奴(KY)」と呼ばれているのです。

1.と2.はセットではありません。その場の「空気」を感じ取り、それを変えたいと思った時には、積極的に空気に働きかけてみましょう。

空気に働きかけるためのシンプルで効果的な方法の1つは、空気の状態を口に出して言うことです。上記の「今、ちょっと冷めた雰囲気になったね」というのもその1つ。「なんかみんな硬いですね」「淡々とした感じですね」というようなのでもOKです。これをシステムコーチングの世界では「場の反映」と呼びます。

必ずしも「リラックスしよう」「盛り上げていこう」とまで言う必要はありません。状態を口に出すだけで、それが場に何らかの影響を及ぼし、変化が起こるのです。

その場の雰囲気を感じ取って流れを知る。それを変えたいと思った時には積極的に「空気」に働きかける。まずは空気の状態を口に出してみる。これを会議や普段の会話でぜひ意識的に実践してみましょう。

学習する組織(ピーター・M・センゲ)

学習する組織――システム思考で未来を創造する

学習する組織――システム思考で未来を創造する

  • 作者: ピーター M センゲ,Peter M. Senge,枝廣淳子,小田理一郎,中小路佳代子
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2011/06/22
  • メディア: 単行本
  • 購入: 3人 クリック: 89回
  • この商品を含むブログ (37件) を見る

※社内メールマガジンに書いた文章を修正したものです

今回は組織開発のバイブルとも言える本をご紹介します。

「学習する組織(Learning organization)」は、1990年代初めにアメリカで提唱された概念です。個人やチームの能力を互いに効果的に高めながら、未来を創り出す力を持続的に伸ばしている組織を指します。

その研究結果を豊富な事例ととともに著したのがピーター・センゲの「学習する組織」です。世界規模でベストセラーになり、日本でも様々な企業がこの概念を採り入れています。

この本では、進化し続ける組織が学習・修得すべきもの(ディシプリン)として以下の5つが挙げられています。

  • システム思考
    複雑に関連しながら動いていく物事のパターンを明らかにし変えるための枠組
  • 自己マスタリー
    個人のビジョン、自分にとって本当に大切なことを継続的に明確にし深めること
  • メンタル・モデル
    私たちがどう世界を理解し行動するかに影響を及ぼす、深く染み込んだ前提
  • 共有ビジョン
    個人のビジョンから、組織が創り出そうとする未来の共通像を共同で掲げる力
  • チーム学習
    メンバーが心から望む結果を出せるようチームの能力を伸ばしていくプロセス

この本のすごいところは、幾多の事例研究に基づいて組織の進化要件をこれら5つにすっきりとまとめ上げているところだと思います。さらにその中で、企業や社会を複雑なシステムと見る視点と、個人・チームの働きにより成り立つものと見る視点とが、深くバランスよく、かつ具体的に使えるツールとともに統合されています。

ハードカバーで580ページもある大部である上に内容も難しいので、社内のチームメンバーでこの本の勉強会を行って読み進めました。興味を持った仲間でディスカッションしながら読み解いていくことにより、各人の負担が減るだけではなく、相互に他の人の知見を得て理解が深まりました。

ホワイトボードを活用しよう

※社内メールマガジンに書いた文章を修正したものです

会議や打ち合わせでホワイトボード、使ってますか? 「割と使ってるんじゃないかな…」と思っても、もっともっと使うようにしてみましょう。私はホワイトボード大好き人間で、昔から何かというとホワイトボードに書きます。一人でホワイトボードに書いて考えることもあります。

ホワイトボードの効用は2つあります。1つは、共通理解が促進されること。話し合いの過程では、どんな事実があるか、どんな課題があるか、どんな意見が出たか、何が決まったかなどの状況が刻々と変わっていきます。それらについてメンバー間で理解を合わせ続けるのは、口で話しているだけでは至難の業です。それらをホワイトボードに書いて目に見える形で共有することにより、共通理解を大きく助けることになります。

きれいにまとめようと考える必要はありませんので、とにかく出たことを書いてみましょう。余裕が出てきたら図や絵を描いたり色の使い方を工夫したりするとわかりやすくなります。最後に要点をまとめた上で写真を撮れば、それが議事録の代わりにもなります。

2つ目の効用は、メンバーの参加度が上がることです。書いたものが目の前で刻々と更新されていくことにより、話に参加しやすくなりますし、眠気も少しは減るでしょう。ここでおすすめしたいのは、席のレイアウトを工夫すること。可能なら全員がホワイトボードに向かって座る形にしましょう。少人数の打ち合わせなら、机をなくして椅子だけでホワイトボードに向かうのもよいです。みんなでキャンバスに絵を描いていく感じで話し合いを進められます。

さらに、ホワイトボードを使った会議をどう進めるか、ファシリテーターとしてはどう関わったらいいかを学ぶには、以下の本がおすすめです。

元気になる会議-ホワイトボード・ミーティングのすすめ方

元気になる会議-ホワイトボード・ミーティングのすすめ方

著者のちょんさんは、ホワイトボード・ミーティングを広める活動をされています。私もワークショップに参加したことがあるのですが、「ホワイトボードを活用すれば会議は必ずよくなる。そしてこれはスキルなので、練習すれば必ず身につけることができる」という信念を持っておられるのには感銘を受けました。

「嫌われる勇気」(岸見一郎、古賀史健)

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

※社内メールマガジンに書いた文章を修正したものです

この本、とにかく売れていて、いろんなところで紹介されているので、天邪鬼な私としては読むのに抵抗があったのですが、一度手にとったらはまってしまい、結局4〜5回読んでしまいました。

精神科医アルフレッド・アドラーの「アドラー心理学」を対話形式で解き明かす本です。アドラーは心理学の世界ではフロイト、ユングと並ぶ三大巨頭の一人らしいのですが、日本ではあまり知られていなかったとか。私も知りませんでした。

アドラー心理学は、心理学というよりも生き方、特に他者への関わり方を説いています。中でも私に響いたのは、「自分の課題と他者の課題を分離し、他者の課題は切り捨てよ」ということと「自分が他者に貢献していると実感することが大事」ということ。これらの一見矛盾したことを目指すのが要なのだということに気づかされました。そのためには「嫌われる勇気」が必要なのです。

そして最後に、「チェックインの話」でも紹介した「今ここ」が登場します。こちらは人生における「今ここ」。「人生全体(過去・未来)にうすらぼんやりした光を当てるのではなく、『今ここ』に強烈なスポットライトを当てよ」というメッセージは深く刺さりました。

対話形式で読みやすく書かれていますので、興味のある方はぜひご一読を。

チェックインの話

※社内メールマガジンに書いた文章を修正したものです

今回のお題は「チェックイン」です。といっても、ホテルや空港の話ではありません。

対話の場やワークショップ、あるいは普通の会議を進行する時でも、最初に「チェックイン」の時間をなるべくとるようにしています。これ、おすすめです。やり方は様々ですが、その時感じていることを何でもいいので一人ずつ全員から短く話してもらう、ということが多いです。知らない人同士の場だと、同時に自己紹介をしてもらうこともあります。

このチェックイン、何のためにやるのでしょう?

「一言ずつ話すことによって全員が発言しやすくするため」「メンバーの状態を共有して関わりやすくするため」「遅れた人が来るまでの時間つなぎ(?)」など、いろんな目的があるのですが、一番の目的は「『今ここ』に集中していくため」だと思います。

前の会議のことが頭に残っている、今日作らないといけない資料が気になる… など、誰もが何らかのしがらみを抱えてそこに集まっていますし、なんとなく気分が乗らないということもあるでしょう。そんなとき、みんなの前で今の気持ちを口に出して共有すると、少し「今ここ」の場に入っていきやすくなります。「今ここ」に入っていくのは、たとえて言えば、剣道や柔道の道場に入る時に一礼する時の感覚です。

チェックインの時に話すことは、「今ここ」に入っていくために出してみたいと思ったことなら何でもいいのです。立派なことを言う必要はありませんし、本題に関係のないことでもかまいません。「さっきかかってきた電話が気になっています」でも「冷やし担々麺が食べられたので満足してます」でもいいですし、「本当はこんなところに出ている場合じゃないのにと思っています」というのもアリです。

会議の最初にみんなで「チェックイン」をしてみましょう。一言ずつならそれほど時間はかかりません。自分の中に何があるのかを「チェック」して、「今ここ」に「イン」していくために必要だと感じたことを口に出してみましょう。

ついでに書きますと、その後も「今ここ」にい続けるためのコツの1つとして「できるだけデジタル機器を使わないこと」があります。PCやスマートフォンは画面の向こう側に別の「世界」を持っているので、たとえ内職をしていなくても、使っているとついついその世界に入ってしまって「今ここ」にいにくくなります。車の運転中に携帯電話を使うと運転がおろそかになる(→法律で禁止されている)のと同じ理屈です。

といっても、資料を参照したり映したり、メモをとったりするために使わなければならないことは多いわけですが、話をする場では漫然とPCを開いておかずに、必要のない間は閉じる、スマートフォンは取り出さない、ということを心がけてみてはいかがでしょうか。

愛のある好奇心

私がコーアクティブ・コーチングの講座に通い始めたのは、2010年6月のことでした。

最初の基礎コースを受ける前に、「コーチング・バイブル」(当時は第2版)を読みました。内容はよくわからないことが多かったのですが、コーチングをするには人に対する「好奇心」(「5つの資質」の1つ)が大事だと書いてあったのが特に印象に残りました。私は自分のことを、人に対する好奇心を人一倍持っている人間だと思っていましたので、その点には自信を持ってコースに臨みました。

コーチングを実際に学び体験し始めてみると、好奇心というのは本当に大事な肝だということがわかってきて、めいっぱい好奇心を発揮してコーチングをやろうと思うようになりました。

一方、コースの中でクライアントとしてコーチングを受ける中で「あなたが何を大切にして生きているのか?」という問いを投げかけられることがあり、それに対して「愛と叡智です」と答えるようになっていました。愛と叡智。これらは今でも自分の根幹にあると感じています。2つともなくてはならないもの。どちらが欠けてもダメ。右脳・左脳統合ということにもつながる2つの要素です。

講座は応用コースに進み、その最後の3日間。その中でのあるワークで、私に対して同じ参加者の一人から投げられた言葉が深く突き刺さりました。

「『叡智』はわかったけど、『愛』が見えない!」

この時はコーチングをしていたわけではなかったのですが、「叡智」に比べて、私の言う「愛」がどんなものかよくわからない、あまり出てきていない、というコメントだったのです。

それについて考えているうちに、気づいたのです。

「自分の好奇心には『愛』が足りない」

私が「人一倍持っている」と思っていた好奇心は、人に対する好奇心ではなく、物に対する好奇心と同じでした。たとえば機械を見て「どうやって動くんだろう? 中身はどうなってるんだろう?」というような好奇心。

いや、同じではありません。けっして人を物と同じように見ていたわけではないのです。でも、人に対する時の好奇心はもっと違うものでなければ。愛のある好奇心を持たなければならない。そう感じました。コーチングで大事な好奇心は、人に対する好奇心、愛のある好奇心なのです。

以来、「愛のある好奇心」はずっと私のテーマになっています。コーチングをする時だけでなく、複数の人の集まる場をリード/ファシリテートする時、さらに言えば普通に人と会話する時でも、愛のある好奇心を持つ、というか、自分の中からそれを出してくるようにすること。終わりのないテーマです。